半目日記

早く全目になりたい

わすれものと罰。

こんにちは、いつきです。

 

わたしが小学校四年生の頃、

担任の先生は「たなか先生」

という、女性の、

限りなく「はやく人間になりたい」といった感じの、

当時のわたしからしてみれば「おばあちゃん?」という雰囲気と、見た目のひとでした。

(母は「おいわさんにそっくりだね!」と言っていました)

 

たなか先生は悪い人ではなかったんでしょうけれど、

なにかと配慮のつもりが配慮になっていない人でした。

 

学校って、毎年クラス全員で学級写真とか、撮るじゃないですか。

そしてそれを教室に貼って、

買う人は横にチェックとかするようになってて。

誰が買って誰が買わないとかわかるようになってて。

当然いつき家は貧乏だからそんなのいちいち買わないわけですよ。

そしたらちょっとおだってる(調子乗ってる的な意)系男子が言うんですよね。

いつきが買ってない〜!

的なことを。

いつきは「頼むから黙ってて」とおもうものの、

本を読んでばかりで友達がいないわたしはコミュニケーション能力がマイナスなので、

そんなことを決して口に出すことは出来ないわけです。

そしたらたなか先生は言ってくれたんですよね。

それぞれのご家庭で事情があるから・・・

と。

 

いやいや暗に!

いつきは貧乏だって言ってる!

ていうかあんまり暗でもない!

ほぼ直接的に言ってるー!!!

となった結果、

おだってる系男子に

いつきんちは貧乏なんだ〜〜(ニヤニヤ)

とか追加で言われるわけです。

追い打ちです。

追いダメージです。

「うるさいなその通りだわ!!」

と心の中で死ぬほどおもっても言えないいつきは、

ひたすらうつむいて、本を読んで聞こえないふりをしていました。

ぜんぜん聞こえていましたけどね

 

そしてその同様のやりとりが、

なにかとたびたび起こるわけです。

家庭科の授業でつかう裁縫セットを買うときとか。

学校で斡旋されるやつは高いので、

母みちえがオリジナル裁縫セットを持たせてくれるんですけど、

そういうの(みんなと違う)って、やたらと目立つんですよね。

母が普通に使っている裁ちバサミとかを持たされていたので、

子どもの手にはでかすぎる上目立ちすぎる、という良くない点しかなかったです。

 

 

たなか先生は、先ほどにも書いたように、

「もう少しで人間」という感じの見た目だったのですが、

たなか先生がある日、いつもより人間から遠ざかっていた日がありました。

たなか先生が教室に入ってきた瞬間みんながザワザワして、

「なにかおかしい・・・」

「いつもより変だ・・・」

とみんなでたなか先生の顔をじっと見つめていたとき、

ある子が叫びました。

先生まゆげがない!!!!

と。

それだー!!

となった子どもたちは口々に「まゆげがない!変だ〜〜!!」

と騒ぎ立て、

たなか先生は

「ちょっと待ってて、30秒で戻るから」

と言ってダッシュで教室を後にしました。

30!29!28!27!26!25!

と、クラス全員が謎に一致団結して大声でカウントダウンをし、

たなか先生の帰りを待った思い出。

肝心な、たなか先生が30秒に間に合ったかどうかは覚えていないのですが、

眉毛を描いて戻って来たたなか先生は、

さっきよりはいくらか人間に近付いていたのを覚えています。

 

 

そして、たなか先生は、

なぜか「わすれもの」に対して異様な厳しさを見せる先生で、

わすれものをした授業では教室の後ろに立ったまま授業を受けさせる

という、まるで昭和のようなスタイルを貫く先生でした。

 

立ちっぱなしでの授業。

ノートなんてぜんぜんとれない。

ひとつでもわすれものをしようものなら、生徒が授業を受ける権利はガン無視。

 

体罰というにはちょっとライトな、

なんというか、「ソフト体罰」的なかんじでしょうかね。

きっと、

「立ったまま授業を受けたくなければ忘れ物をするなよ」

という、たなか先生なりの、

わすれもの対策だったんだとおもうんですけど、

わたし、

この頃ほぼ毎日教室の後ろに立ってたんですよね。

 

もちろん、決して立ちたいわけではないんですよ。

授業を受けたくないとかでもないんですよ。

何なら立つのが嫌だから前の日にかばんの中身をきちんとチェックするはずじゃないですか。

それなのに、わたし、ほとんど毎日立ってたんですよね。

 

一体これはどういうわけなんだろうとおもって、

わたしは不思議でたまらなくて、

毎日教室の後ろに立たされながら考えていたんですけど、

ぜんぜん理由がわからないんですよ。

立たされてる人って決してわたし一人だけではなくて、

ほかにも立たされてるひとがいたんですよね。

それも毎回。

ぜったいにわたしのほかにも誰かが立っていました。

いつきはそれまではほとんどわすれものなんてしたことがなくて、

四年生になり、担任がたなか先生になってから突然するようになったんですよね。

あまりにもずっと改善しないので、もう途中からいつきは、

「わたしは必ず一日に一つはわすれものをするという病なのかもしれない」

と本気で考えるほどに毎日わすれものをしては教室の後ろに立たされていました。

 

そして毎日のように立たされ続け、いつきが自分のわすれもの病を受け入れたころ。

五年生に上がって担任が変わり、

べつに忘れ物をしても立たせたりしない普通の先生に変わったとたん、

いつきは、

全くわすれものをしなくなりました

 

・・・あの、教室の後ろに立ち続けた一年間は一体なんだったのか。

 

立たされたくない、

きちんと授業を受けたいとおもっているはずなのに、

ついついわすれものをしてしまう。

 

頭ではよくないこと、とわかっているはずなのに、

ついわすれものをしてしまう。

頭ではわかっている筈なのに、

無意識下でつい良くない方を選んでしまう。

そういうことって、ありますよね。

わたしはこれを、

「たなか現象」

と呼んでいます。

 

いつきは、

誰かに何かをさせないために罰を与えても無意味、

ということを五年生で学習しました。

 

わたしが

「痩せなければ・・・痩せなければいけない・・・」

と思いながらもお菓子を食べるのを全くやめられないのも、

たなか現象だから仕方ないんだとおもいます。

 

誰からも罰を与えられることがなくなった今は、

ただただ自分のわがままの分だけ体重が増える

という残酷すぎる罰がわたしを襲うのみです。

 

 

ああおそろしや、

たなか現象・・・・・・